ビバ!薀蓄
初めてヒラミルミドリガイを見たとき、よくこんなのを発見するなぁと感心するとともに、その色、美しさ、形の愛らしさに感動したもんだ。海草にへばりついているわけで、木にへばりつくカメレオンの擬態のように、いや、よくみなければわからないナナフシのように、といったほうが言い得ているような気がするが、要は海中という空気的にも限られた空間の中で発見するのは難しい生き物である(少なくともあたしには)。以来あたしはヒラミルミドリガイを見つけたくてたまらないのであるがいまだかなわず、陸に上がりっぱなしで夢の中ですら逢うことはない。
おそらくそのヒラミルミドリガイと出会ったころから、ウミウシが好きだ。あたしの育った横須賀の海はウミウシというよりもフナムシのイメージの強い海辺だからウミウシをよく目にしていたとは思えない。どうしてウミウシがこうも気になるのかはうまく説明ができないのだが、おそらくは大抵荒れて状況のよくない海に体力勝負って感じで潜っていたあたしにとって、唯一気が休まる存在だったんじゃないだろうかと、思う。
わけのわからない形をしている。噛んだガムをペッてだしたみたいな色だったりするし、子供が紙粘土に変な色のペンで適当に色をつけた、という代物的な印象も受ける。ときとして、でかっく切り過ぎたイカの刺身の様でもあり、へろりとめくれて漂っていくさまはまるで踊るフラバーのようだ。
今日先日お会いした出版社の人のところに遊びに行ったら、そこのチームにいる編集者の人が巻貝とウミウシの体の構造の差異について語ってくれてすごく面白かった。帰ってくる途中で貧血で気持ち悪くなったけれど、家について海辺生物の図鑑を取り出してみていたら気分がよくなってきた。うーん。海洋生物学を勉強したい気分だ、とか思いながら元気になったついでにビールを飲んで酔っ払った。レイチェルカーソンは海洋生物学者なんだよなぁ、なんてぼんやり思っていた。
いつも思うけれど、ジャンルを限らずマニアックな人の話を聞くのは非常に楽しい。マニアックな話をしている人の目つきが、またよい。よく、飲んでる席で薀蓄を語ってる人を非難する声を耳にすることがあるけど、あたしにはそれがよくわからない。薀蓄は聞けば聞くほどに面白く、もっと掘り下げて聞きたくなる。あたし自身は、あんまり語れる薀蓄持ち合わせてないところがちょっと悲しい。語りたいことをうまく言葉にできないことも。