雪の降った次の日
一昨日の夜から降り始めた雪は昨日一日中降り続いていた。そろそろと雪の上に足を出しながら幼い頃の記憶に思いをはせたりする。
沢山雪の降った次の日はなんだかわくわくしながら窓から外を眺めたりしていたものだ。小学校のころ引っ越した家は1階で,ベランダの前にはマンションの芝生が広がっていて,まだ誰も足跡をつけていない雪の上に,ベランダの手すりを乗り越えて飛び降りるのが好きだった。後で濡れて冷たくなった手足がかゆいだのいたいだのつめたいだのいって騒ぐのは目に見えているのに,このふわふわの中にぽそりと入ってしまいたい衝動というのはなかなか抑えがたかった。
あるとき雪がいつもよりも沢山降った日の次の朝,わくわくしながら窓を開けると,早朝だったにもかかわらず先客がいた。人の靴の後ではなくて,別の生き物の跡。普段は鳥の足跡だの犬の足跡だのをちゃんと視覚することがすくないから,改めて「あーこういう形をしてるんだ本当に!」といまさらのように驚いて,足跡を追いかけて雪の中を歩き回り,挙句の果てには靴も脱いで自分の足跡をつけてみたりした。
またあるときはそれだけにとどまらず,おそらくテレビで見た雪像のようなものを作ってみたくてごろごろごろごろと雪の大玉を作ってあれやこれや作ってみたりした。自分なりに結構いけているものができたと満足して家に戻って窓からずっと眺めていると,近所の子供たちがやってきて,あろうことかとび蹴りをしていった・・・。
昨日の静かな夜とはうって変わって,今朝はいろんな音がしていた。雪が緩んで屋根や木の枝から落ちる音や溶けたしずくが垂れる音。雪は降っている間いろんな音を吸収するけれど,一旦止んで緩み始めるとぱちぱちばさばさちょろちょろといろんな音を解放する。まるで,降っている間に包み込んで溜め込んでミュートした音を吐き出すかのように。