救われた夜
大きな砂山を
ふもとからただ両の手で掘っているような気分になる
砂山の中には
ガラスの欠片が埋もれていたり
なくしたと思っていた時計が隠れていたりする
ガラスの欠片でざっくりと怪我をしたのに気がつかず
時計を見つけて引きずり出して初めて血が流れていることを知って
傷口を眺めていたら痛み出した
痛くて手を休めている間に
さらさらさらさら砂山は大きくなって
まるで心臓が怪我をした手にあるかのようにどきどきと波打って
どうにもこうにもやりきれなくなった
足を投げ出してぺたりと座り込んで
歌を歌った
途切れ途切れ
喉は枯れて
音程も悪く
リズムも今いち
それでも歌い続けていたら
砂山のことも
ガラスの欠片のことも
時計のことも
怪我のことも
時計を見つけた喜びのことも
みんな遠くに消え去った
ああ,なんでもいい
思った刹那
ガラスの欠片を埋めたのも
時計を隠したのも
砂山を大きく育てたのも
きっとあたしなんだなと気がついた
いつか砂山は姿をかえて平らになり
時計は大事に磨かれてピカピカに動き出し
痛みは去って傷跡がうっすらと残るだけだろう
そう思えた夜
救われた夜
音に感謝