ナニモノかになりたい
大学院のときに「視聴覚教育」についての講義を取っていた。専門外だけどね。その前の年に受講した後輩が面白かったと言っていたので,なんとなく聴きにいき,面白かったので受講することにした。効率のよいプレゼンの仕方とか,カメラワークとか。後なんだっけ・・・わすれたが・・・。大学に在籍していた中で一番ちゃんと聞いた講義のひとつだったと思う。私は写真を撮るのも撮られるのも実に苦手なのだが構図について教えてもらったときは,おーこんな風にして写真を撮ったらいいのか,と思ってカメラ片手にあちこち撮った。プレゼンの作り方についてはいまだに参考にしている。
あるとき講義の質問をしにいって,その先生と話していたら「あなた,何になりたいの?」と言われた。「よくわかりません」と答えた。「夢とか,ないわけ?」「さしてありません」そのときは,本当に明確に「就職したい」とか「何々になりたい」という目的もなく,自分のこの先についてあまりの不透明さにほとほとあきれていた。
学部を卒業した同期の子は就職したりして,はたまた大学院に進学した子はさらに勉強をして他の大学を受験したりすることを狙ったりして,まぁなんというか,行く先について結構ちゃんとしてた気がする。私は,就職したい気持ちもなく,自分が哲学をこれ以上続けることについては熱意が持たなくなっていて,モラトリアムループみたいなものに入り込んでいたかもしれない。そのとき,「何になりたいわけではないけれど,ナニモノかになりたい」と思っていた。そのときの先生の質問には,非常に曖昧な感じにしか答えられなかったけれど,今もこの気持ちは変わらなくて,私は「ナニモノか」になりたい。
数ヶ月前のこと,友人と話をしていて「いろいろあるかもしれないけれど,あなたは歌を選んでよかったね」と言ってくれた。その友人は10年前はやりたいことだらけでひとつに絞れない私を見て,この人はどうなるんだろう,と思っていたそうだ。もっとシンプルに,もっとストイックに,過ごしたらいいのかもしれない,と最近思う。