道端に
愛が落ちている
擦り切れて
踏まれて
ぼろぼろで
まるでひどく汚れたところを拭いた後の雑巾みたい
誰も気がつかずに
自転車やバイクもその上を通る
歩道から誰かはタバコの吸殻を投げつけたりして
犬も寄らない
しばらく前まで
やっぱりあたしもそれが愛だと気がつかなくて
それでもずっとそこにあるから
あの汚れた塊は何なんだろうと思っていた
あるとき
ちょうどその塊の対岸で信号待ちをしていて
ヘッドホンから大音量で流れ出す音にあわせて歌っていたら
気がついてしまった
あ,あれは,あたしが落とした愛だ
目の前をトラックや車がごうごうと行き過ぎる
信号はまだ変わらない
右を見て
左を見て
右を見て
向こう側に渡るチャンスを探っていた
あたしのすぐ脇を
車が大きなクラクションを鳴らしながら通り過ぎる
ようやくのこと
ずいぶん長い信号が青になったから
急いで対岸に走っていった
愛は,もう,そこになかった
道端に
ずいぶん長いこと
愛が落ちていた
擦り切れて
ぼろぼろで
ぐちゃぐちゃで
どろどろで
きっと車のタイヤに轢かれて
踏みつけた靴底のガムみたいに
しがみついてくっついていったんだろう
あたしがずいぶん前に落とした愛は
きっとあたしを呼んでいた
だけどあたしが気づいたときには
愛想を付かしてどこかへ消えた