新宿ピットインに久しぶりにライブを聴きに行きました。コンガ今村祐司さんとサックス後藤輝夫さんの『Beat from the Earth』発売記念ライブ。
今村さんは人柄も柔和でこういっては失礼だけれど,とても可愛らしい方です。そんな見かけとは裏腹に,叩き出されるリズムの巧みなことと言ったらない。合間合間の寒いギャグも,今村さんならでは。かなり沢山のお客様がいらしていて,さすがだなぁという感じ。ピットインの音響もなかなかいい感じで,聞いているこちら側にも不安感が無いし,臨場感溢れるステージでした。
サックスの後藤さんはといえば,大先輩の胸を借りてといった雰囲気でしたがなんのなんの。今村さんを駆り立てもし,テナー,ソプラノ,中国の笛,さらにパーカッションも演奏するなど,一人何役?という感じでした。
この二人の紡ぎ出すサウンドは,世の中一般的には耳慣れたサウンドではないかもしれないけれど,聴くたびに胸が熱くなるフレーズが飛び出して,我々はしっかりと大地に根付いているのだと認識させられる。今はいろんな音が世の中に溢れているけれど,この二人のサウンドを聞けば,たとえば母の背中で鼓動を聞いて安心する赤子のような,着実に記憶にあるはずのビートに気がつく。それはジャズだ,ポップだ,ラテンだ,演歌だとかそういう細かいことではなくて,もっと根源的でシンプルな部分に存在するビートである。
パーカッションにもいろんな楽器があって,今日登場したコンガやジャンベに限らず大小さまざまである。パーカッションはそもそもアフリカなどでは通信手段の一つであるから,近くや遠くに伝達するという目的があるものだそうだけれど,あるジャズピアニストは,コンガは一番遠くまで音が響く楽器だと教えてくれた。確かに叩いてみれば低く,高く,浅く,深くと様々な音色を持つ楽器であることを知る。
その楽器を駆使して今村さんは,時に語るように,時に朗々とリズムを刻む。聴いているうちにコンガの音色が視覚できるような気になってくる。それはコンガの表面から離れると,まるで光に反射して様々な色合いを見せるシャボン玉のように,丸みを帯びてぽわんぽわんと飛び出してくる。
軽やかで,かつ深い。その粒立つリズムに乗って,時にアグレッシブで時に泣けるほどの美しい色彩を放つサックスの音色。ふと思う。人はもっとシンプルで,もっと根源的な部分に回帰すべきではないだろうか?大量生産されるどれを聞いても同じようなサウンドにまみれて,何が売れる基準なんだかよくわからない時代だから,よさの尺度というのは様々だろうけれど,これほど真摯でこれほどシンプルで,これほど懐かしくて,これほど新しいサウンドを最近耳にしていない。
それは今村さんと後藤さんの,何十年もかけて培ってきた音楽への情熱や,人類や地球への愛情のなせる業だ。ヒトは存在する限り何かしらを損なう生き物である。それは自分自身に対してだけでなく,外側の世界に対してでもそうである。聴き方によってはいろんな響きをする二人のサウンドは,そんな人類の存在に対する警鐘でもあり,許しでもある。ぜひ一度聴いてみて欲しい。そこから何かしら感じるメッセージがある。