記憶の中の音色
先日からなんかの曲の1小節目が頭の中でなっている。音の傾向的にコルトレーンじゃないかと思っていたので忘れないようにずっと口ずさんで,何の曲だったか思い出したいと試みていた。アウフタクトで入ってトゥリルが2小節ぐらい続くようなフレーズなんだけど,はて,なんだろう??
それと同じくして,私のジャズの原体験になっている数曲があるのだけれど,それをもう一度聞きなおそうと思っていた。その数曲はマイルスのCookin'に収録されているエアジンという曲と,キースのCountryと,誰の演奏かわからないけれど,至上の愛。マイルスのエアジンとキースのカウントリィは,題名もなにも全くインフォメーションがなくて,カウントリィは何も書かれていないテープに入っていてそれを聞いていたもの。エアジンにいたってはたった1回10年前にラジオでかかっていたと言うだけ。ひょんなきっかけからここ数年で曲名が判明していた。記憶の曲が耳から入ってくる音と同じだったときの感激はものすごい感動だったのだけれど,いうなれば,たまたま10年以上前に乗った飛行機で斜め前の席に座っていた人を,今朝地元の駅で見かけた!というような衝撃。あとは3万ピースぐらいのジグソーパズルをやっているときにふと手にしたピースが意図せずぱちりとはまるというような事象にも似ている。
至上の愛はエアジンやカウントリィと違って,テープに題名が書いてあったから,名前だけはわかっているので探すのは容易だと思っていた。至上の愛といえばコルトレーンだろう?そのときにはもう,その先日から頭の中でリフレインしているフレーズがコルトレーンの至上の愛のどこかなんだろうと勝手に決め付けていた。コルトレーンの至上の愛を図書館で借りることにした。
ところが待てど暮らせどずっと予約中。どうするかなぁと思っているときに中古CDを買うチャンスがあったのでそれで格安でコルトレーンの至上の愛を入手できた。CDが届く。そうかー,これか。これがあの時聞いていた至上の愛か。などと思いつつ聴いて見ると・・・あれ?先日から頭の中で流れているフレーズはどこにも出てこない。しかも私が聞いていた至上の愛とは似ても似つかぬ音色である。そうなるとますます聞きたくなってくる。あれは何の曲のフレーズなんだろう・・・私がかつて聴いていた至上の愛は誰の作品なんだろう??
落ち着いて思い出してみると,私が聴いていたテープの至上の愛にはサックスの音色は無かった気がする。その時点で気付け,って感じだけれど,コルトレーンの至上の愛じゃないわけだ。何が聞こえてたかなぁ・・・。そうか。たぶんあれはフルートだ・・・。図書館の蔵書ページを検索していると・・・ははぁ,ヒューバートロウズの至上の愛があるではないか。これは予約中になってない。早速借りて聴いてみる。
あ,私が聞いていたのはこれだ。いとも簡単に至上の愛のなぞは解けた。ちなみにこちらの至上の愛はAmazing Graceだった。コルトレーンのはA Love Supremeね。とほほ。まぁ,とほほ,なんだけれど,10年前に聞いていた曲が今再現されるとなるとやっぱり感慨深いものである。へぇー,とかほぅ,とか思ってしばらく聞いていたけれど,残念ながら,10年前いいと思っていた何かは輝きが失せていた。ものすごく懐かしい思いはあるけれど,それ以上でもそれ以下でもない。10年前の私は音楽的な嗜好が全くもってクラシック寄りだったから,このアルバムが好きだったのはものすごく理解できる。このサウンドは,なんというか,斬新なクラシック(笑)のように響く。
至上の愛のなぞ?は解けたけれど,さてはて,この頭の中でリフレインしているこのフレーズは何の曲か,という問題が残った。どこかで聞いた記憶なんだろうが,コルトレーンサウンドだろうとあたりをつけてはいるものの,私の持っているコルトレーンのコレクションはあまりに貧弱なので,その中にはないだろう。別に焦っている話でもないので,のんびり探すことにした。図書館で借りてきたり中古を買い漁ったりしてコルトレーンのアルバムをあれこれ聞いてみている。ところが(笑)どのアルバムもいいので,1枚を何日も何日も聞いちゃったりしてね,全然フレーズ探しなんてそっちのけ。そもそもの,コルトレーンのなんかだろうという予測が間違っていたら,また海図なくして大海原へ旅に出るようなもんなんだが。